コラム「四季の風」

物が手元にあるということ

2021.05.11

コラム「四季の風」

◆最近、電子書籍をよく利用する。片手で読めて場所を選ばないので、いつの間にか重宝するようになった。とはいえ、ずっと電子書籍を利用していると紙の本が恋しくなる。紙の本でしか得られない充足感は、間違いなくあるはずだ。

◆2019年時点では、電子書籍は紙書籍の4分の1ほどの市場規模だったそうだ。データから見るに、まだまだ紙の本の需要は衰えていない。しかし、電子書籍の市場規模は年々成長し、2015年からすでに2倍近くになったという。あとは徐々に、その差が縮まっていくばかりなのだろうか。

◆紙の本のデメリットには、場所を取るという点が挙げられる。しかし、その存在感がいい。本屋で手に取って、気に入って買っていっても結局積んでしまうこともしばしばだが、欲しいと思った本が本棚にあるという景色だけでも十分に楽しい。

◆さらに言えば、形あるものは経年により劣化していくのが常だが、時を経て自分の持ち物になっていく感覚は何物にも代えがたい。父から譲り受けた三十年物の文庫本は、日に焼け、煙草の匂いが染みついていて、佇まいが渋く憧れる。紙の本には、唯一無二の思い出という価値が刻まれていく。(S)

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