コラム「四季の風」

秋の楽しみ一挙両得

2022.09.21

コラム「四季の風」

◆夜風がすっきりとした涼風に変わった。寝る前、部屋の窓を開け、本を開くのが最近の楽しみだ。エアコンのいらない夜の風は優しく、読書の秋の到来を日々実感している。スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋。秋の訪れに気づくきっかけは、人それぞれだろう。

◆読書をしつつ、食欲の秋を楽しんでいる。小説家・西條奈加氏の『まるまるの毬』は、江戸時代の菓子屋を描いた時代小説だ。親子3代で営む菓子屋「南星屋」を舞台に、菓子を愛する人々の身に起こる様々な出来事を描く。

◆南星屋を訪れる客には、悩みを抱く人もいる。菓子を通して、大切な人と分かり合おうとする人々の日常が優しく描かれていて、読んでいて心地が良い。菓子の描写から、形、味、食感を想像するのも楽しみの一つだ。想像の中で目にし、口にしたそれらは、現実のどんなものよりも美味しく、きらめいている。

◆とはいえ、読みながら想像した通りの味ではなくとも、物語に出てきたものを現実で食べたくなるのは避けられないことだ。今日は和菓子を買って帰って、味わいつつ小説の登場人物たちに思いを馳せたい。(S)

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