「茨城の防災」危機管理を問う

茨城の防災 危機管理を問う 11

2025.12.11

「茨城の防災」危機管理を問う

山田 陽一(やまだ よういち)
 1964年7月29日生まれ。61歳。89年に県庁へ入庁し、検査指導課首席検査監などを経て、2025年3月に建築指導課長で定年を迎えた。現在は(一財)茨城県住宅管理センター理事長を務めている。

応急危険度判定制度の創設

 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、日本の建築防災政策に大きな転換点をもたらしました。震度7の激しい揺れにより、約25万棟の建築物が全半壊し、6400人を超える尊い命が失われました。特に注目すべきは、犠牲者の多くが建築物の倒壊や家具転倒によって命を落とした点です。これは、旧耐震基準で建てられた建築物が脆弱であること、老朽建築物の倒壊リスク、木造住宅の課題が顕在化した瞬間でもありました。
 また、震災直後の混乱の中で損壊した建物に住民が不用意に立ち入ることで発生する二次災害を防止するため、建築物の安全性を迅速に判定する、日本初の応急危険度判定が行われ、これが応急危険度判定制度の整備へつながりました。地震直後の「建築物の安全性に関する迅速な評価」が人命を守るうえで極めて重要であることが社会全体に認識されたのです。
 この震災までは、本県では活断層は発見されておらず、地震による被害はあまり重要視されていませんでした。当時、私は建築指導課の防災担当として建築物総合防災計画の策定業務に携わっていたこともあり、阪神・淡路大震災の際に本県の応急危険度判定チームの取りまとめとして判定活動に参加することとなりました。
 まだ、全国的にも応急危険度判定制度が確立されていなかったこともあり、手探りの中、朝から晩までの判定活動が1週間続きました。現地での被災した街並みが目に焼き付き、建築防災行政の重要性を再認識するとともに、その後の建築防災の取り組みを行っていくうえで大きな影響を受けました。
 帰庁後、応急危険度判定制度の創設に取り組み、同年秋には全国的にもいち早く制度を創設するとともに、制度の創設直後から判定士の養成に積極的に取り組みました。建築士会、建築関係団体、市町村などと連携し、判定士養成の講習会を毎年実施し、判定活動の手順や判定基準を学ぶ座学に加え、実際の建物被害を模擬した実地訓練など、より実践的な内容を取り入れてきました。
 また、判定活動を円滑に進めるためのマネジメントを行う、市町村職員を中心とした判定コーディネーターの育成にも力を注ぎ、災害時での迅速かつ効率的な判定活動の実施体制整備も行ってきました。
 判定活動の要となるのは、発災直後の迅速な出動です。そのため、県では判定士の登録情報をデータベース化し、広域支援体制や市町村との連絡網を整備することで、県内で大きな地震が発生した際には、県が市町村へ判定士の派遣を調整し、必要に応じて近県からの応援要請も行える仕組みを構築しました。
 これらの取り組みにより、本県にも大きな被害をもたらした東日本大震災の際には、県外の判定士に頼ることなく、県内の判定士延べ929人が、県内全域で1万5863棟もの被災した建築物の判定活動を、わずか2週間で行ったことは高く評価されました。

建築物の耐震化促進に注力

 建築防災の重要な基盤となるのが、建築物の耐震化です。特に、昭和56年以前の旧耐震基準で建てられた建築物は地震に対する耐震性能が十分ではなく、倒壊リスクが高いことが指摘されています。本県では、耐震診断・耐震改修に関する補助制度を設け、公共建築物だけでなく民間建築物の耐震化にも力を注いできました。
 耐震化率の向上は、地震時の人的被害を直接的に減らす取り組みであり、最も効果が高く、本県においては、学校、病院、庁舎などの災害拠点となる施設の耐震化は完了しており、災害時の地域防災力強化に大きく寄与しています。
 現在は、能登半島地震でも大きな被害をもたらした旧耐震基準の木造住宅の耐震化と、避難路沿道の民間建築物の耐震化促進に取り組んでいるところです。
 本県では、住宅の耐震化率は全国平均を上回る水準まで向上してきたものの、依然として相当数の旧耐震基準で建てられた木造住宅が存在しており、過去の大震災では多くの木造住宅が倒壊し、それが多数の犠牲者を招いたことを考えると、木造住宅の安全性向上は最重要課題の一つであるといえます。
 県はこれまでも、耐震診断の普及に向けて、市町村と連携した補助制度や無料相談窓口を設け、住民が自宅の危険度を把握しやすい環境を整備してきました。
 さらに、耐震改修工事に対する補助金制度を拡充し、高齢者や単身世帯などの負担軽減を図るとともに、地域の防災力向上のため、耐震化の啓発活動を毎年継続して行い、耐震改修によって得られる安全性の向上や地震後の生活継続性の重要性を分かりやすく発信するとともに、工事内容の標準化や施工者の技術向上にも取り組んでいます。
 これらの支援に加えて、昨年度には木造住宅の耐震化アクションプランを策定し、計画的に木造住宅の耐震化を進めるとともに、新たにひと部屋から耐震化を図れる耐震シェルターの補助制度を創設するなど、多種多様な施策を展開しており、住民自身が防災の担い手として、安全な住環境を整備できるよう後押ししています。
 自然災害を完全に防ぐことはできませんが、被害を最小限に抑えることはできます。過去の大震災の教訓を生かし、建築物の安全性向上、災害対応体制の強化、最新技術の活用、人材育成、地域防災力の向上、これら平時の備えを着実に積み重ねることこそが地震による被害を最小限に抑え、県民の生命と暮らしを守る道であると考えます。
 建築防災の取り組みは、いわば「地域の未来を支える基盤づくり」です。今日の取り組みが、10年後、20年後の安全につながります。建築防災は行政だけで完結するものではありません。県民の皆様の理解と協力、建築関係者の専門性、市町村の現場力、そして県の支援体制が連動することが重要です。
 これからも県民の皆様、建築関係者、市町村行政と力を合わせ、安心して暮らせる茨城県の実現に全力で取り組んでいくことが重要です。

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