茨城の防災 危機管理を問う 10
2025.10.30
「茨城の防災」危機管理を問う


木村 政美(きむら まさみ)
1963年1月18日生まれ。62歳。83年入庁。三浜港湾事務所(現・茨城港湾事務所大洗港区事業所)に配属。道路維持課技佐を経て、2023年に常陸太田工事事務所長で定年を迎えた。23年からはサンコーコンサルタント㈱理事を務めている。
命守る「見えない安心」を築く
近年、全国的に台風や集中豪雨の被害が頻発し、地震においても南海トラフ地震や首都直下地震の発生が危惧されているところです。私たち土木技術者にとっては、単にインフラを整備することだけでなく、地域の安心・安全を支えるという社会的使命がますます重要となっています。
私たちの仕事は、目に見える構造物だけでなく、地域住民の命と暮らしを守る「見えない安心」を築くことでもあり、橋梁の耐震補強、河川の氾濫対策、老朽インフラの更新など、災害に強い社会基盤の整備に向けて、知識と経験を活かし防災対策に取り組んでいかなければなりません。
今回は、私が新人時代に経験した災害対応の記憶と、最後の勤務地となった常陸太田工事事務所での防災・減災に関する仕事について紹介させていただきます。
はじめに、茨城県土木部在籍中には数多くの自然災害を経験しましたが、特に印象に残っている昭和61年の台風10号についてお話させていただきます。
新規採用から4年目の昭和61年8月4日~5日、台風10号による記録的な大雨により、県内各地で河川の溢水、決壊が相次ぎ、死者・行方不明者4名、床上浸水約7000戸、床下浸水は約8000戸におよび、公共土木施設等も甚大な被害が生じました。
当時勤務していた三浜(さんぴん)港湾事務所は那珂川最下流部の左岸にあり、事務所の周囲を鋼矢板で囲む形で敷地が造成されていました。
この大雨による濁流で鋼矢板下端が洗堀され、駐車場用地の土砂がみるみる吸い出されて、水没していきました。
鋼矢板から事務所建物までの距離は10mほどありましたが、数時間のうちに駐車場の半分ぐらいが水没し、事務所が流されてしまうのも時間の問題と思われる状況になりました。
応急復旧工事を依頼した地元の建設業者の方々が資材を調達して到着するまでの間、吸い出しを食い止めるため、私を含む若手数人でライフジャケットを着用し、鋼矢板上部のコンクリート天端を砕石入りの土嚢袋を持って何度も往復して、吸い出し箇所に投入を続けました。
数時間後に建設業者の方々が到着し、大型土嚢や大量の砕石投入等の応急作業によりギリギリで建物の崩壊を食い止めていただくことができました。しかし、時間は真夜中。左は濁流、右は水没した駐車場、一歩間違えば転落して命を落としかねない状況でした。
夜が明けて那珂川のほうを見ると、作業船やガスボンベ、冷蔵庫などが絶え間なく流されていくのが見えました。また、目の前で自分の目線より高い位置で川からの濁流と海からの高波がぶつかり合う迫力に恐怖を感じたのを覚えています。
その後、東日本大震災や令和元年台風19号など、数多くの大規模災害を経験してまいりましたが、新人時代に必死になって災害対応をしたこの記憶が、最も鮮明に残っています。
橋梁の耐震化工事を着実に
次に、令和3年度~4年度、常陸太田工事事務所勤務時代に取り組んだ防災に資する事業(道路、砂防)について紹介させていただきます。
道路橋の耐震補強につきましては、阪神淡路大震災を受け、旧基準で設計された15m以上の橋梁の耐震化が進み、現在ではそのうち緊急輸送道路の橋梁を対象に、順次工事が実施されています。その結果、茨城県全体および常陸太田工事事務所管内の耐震化率は、どちらも約87%となっています。(令和6年度末時点)
令和3年度には、それまで未着手となっていた常陸太田市の南側からの玄関口となる国道349号の、幸久大橋の耐震補強工事に着手し、これまでに対象となる橋台・橋脚25基のうち4基が完了しており、今年度も順次工事が進められています。
また、常陸太田市東染町の鍬柄平沢(かがんだいらさわ)は、大雨時に土石流が発生し、下流にある人家や緊急輸送道路に指定された県道等に大規模な被害が発生する恐れがある渓流で、土砂災害から人命や財産を守るため、2種類の砂防堰堤や土砂を含んだ流水を安全に流すための渓流保全工等の整備を実施しています。すでに上流側の透過型堰堤と下流側の不透過型堰堤が完成し、現在は、工事の最終段階となる渓流保全工の工事が進められています。
これらの事業を進めることにより、災害への備えは着実に強化されていくものと考えています。
また、災害発生後の被害を最小限に留めるためには、消防や人命救助、応急復旧や救援のための物資輸送等の効果的な実施が必要であり、迅速に道路啓開を行うことが求められます。
土木部の各出先機関においては、建設業協会の各支部と「災害時における応急対策業務に関する細目協定書」を締結し、災害発生時には道路啓開等の応急対策業務を実施していただくことになっています。建設業協会の方々には、いざという時の地域の守り手として大変心強く感じています。
最後に、令和元年に茨城県で甚大な被害をもたらした台風19号(令和元年東日本台風)は、県内各地に広範囲で記録的な大雨をもたらし、北茨城市花園では総雨量が観測史上最大となる479ミリを記録しました。常陸太田工事事務所管内においても、徳田地区で345ミリを記録するなど豪雨にみまわれ、里川や浅川など河川被災箇所26箇所、国道461号や県道十王里美線など道路被災箇所4箇所という大きな被害を受けました。
こうした公共土木施設等の応急復旧工事を昼夜問わず実施していただいた地元建設業者の方々に、心から敬意を表するとともに、改めて深く感謝申し上げます。


