茨城の防災 危機管理を問う 8
2025.08.29
「茨城の防災」危機管理を問う


栗林 俊一(くりばやし しゅんいち)氏
1965年3月16日生まれ。60才。88年に入庁し、潮来土木事務所に初配属。災害・防災対策監兼河川課長、土浦土木事務所長を経て、2024年3月に定年を迎えた。現在は県土地開発公社の副理事長、県開発公社の常務理事を務めている。
庁舎機能を維持、情報収集を徹底
近年、気候変動の影響により、全国各地で大規模な風水害が頻発しています。茨城県においても、令和元年東日本台風(台風19号)では那珂川や久慈川をはじめとする多くの河川の氾濫により甚大な被害が発生し、災害対応力の強化が求められてきたところです。
今回は、これまでの経験を踏まえ、茨城県における風水害、特に河川災害への対応について記したいと思います。
まず、災害対応の基盤となるのは、職員の迅速な配備と災害時対応の基地となる土木事務所などの庁舎機能の維持です。災害発生時に即応できるよう、職員の安否確認と状況に応じた職員の配備態勢を構築した上で、他部署からの応援派遣職員の事前登録を行うことにより、速やかな人員の確保、並びに円滑な人的支援を行えるよう体制を整える必要があります。
土木事務所など庁舎の非常用電源の確保や設備点検を定期的に行うことにより、災害時における庁舎機能の確保を図り、災害時においても情報収集と意思決定を迅速に行える態勢の維持にも努めています。
また、災害対応は県だけでは完結しません。県では、国の河川事務所や市町村との連絡体制とホットラインを構築し、情報共有を強化しています。これにより、河川水位の急激な上昇や堤防の異常など、現場の状況をリアルタイムで把握し、迅速な対応が可能となっています。
さらに、建設業協会をはじめとする関係団体との災害時協力協定により、災害発生時には各団体からの支援と協力を受け、応急復旧や被災状況の調査を迅速に進めることができます。官民連携による災害対応力の向上は、地域の安全確保に不可欠となっています。
河川の安全を確保するためには、日常的な維持管理と点検が欠かせません。必要に応じて河川敷の樹木伐採を行い、流下阻害要因の除去を図ることは、河川の流下能力を維持する上で極めて重要です。河道掘削も有効であるため、深浅測量による河道断面の確認を行い、河道確保のための維持掘削を計画的に実施しているほか、築堤河川の堤防高についても定期的な点検を行い、洪水時の流下能力を確保し、氾濫リスクの低減を図っています。
災害時の対応で特に真価を発揮するのは、日頃の訓練と人材育成です。茨城県では、水防情報や土砂災害情報の伝達訓練を定期的に実施し、情報共有体制の向上に努めています。
ダムの事前放流や緊急放流に関する訓練も行われ、関係機関との連携強化に努めているほか、ドローン等を活用した被災調査訓練も実施し、現場対応力の向上を図っています
災害に強い県土へ技術力を強化
水防活動は、河川改修と並ぶ水害を防ぐための「車の両輪」だと言われています。
水防活動の基盤となるのが、水防計画に基づく資材の備蓄です。県では、土のうなどの水防資材を各土木事務所に分散備蓄し、緊急時に即時展開できる体制を整えています。
毎年実施されている各水防団による水防工法演習では、土のう積みなどの実技訓練により、技能の向上が図られているほか、地元水防団等と河川管理者との連携による重要水防箇所の共同点検も実施されて、地域の防災力が高められています。
災害復旧対策に関する技術者の育成を目的とした講習会も開催され、若手職員等を対象に、災害対応の基礎知識などを体系的に学ぶ機会が提供されています。こうした人材育成は、災害対応の持続性と質の向上に直結する重要な取り組みとなっています。
また、災害対応には、正確な情報が不可欠です。茨城県では、水位計や河川監視カメラの増設を進めて、リアルタイムでの河川状況の把握を可能にしています。
これらのデータは、県民向けの防災情報サイトを通じて公開されており、住民の避難判断にも活用されているところです。
さらに、市町村が作成するハザードマップの基礎となる浸水想定区域図の製作にも力を入れ、これにより地域ごとのリスクを可視化し、住民の防災意識向上と避難行動の促進に繋げています。
今後は、AIによる浸水予測やドローンによる被災状況の把握など、デジタル技術のさらなる活用が期待されており、災害対応の高度化は、技術革新と現場力の融合によって実現されていくことでしょう。
災害対応には、日頃からの備えがとても重要です。災害時においては、訓練などで備えている以上のことは実行できないと言われます。だからこそ、平時からの準備と訓練の積み重ねが不可欠です。
また、急場においては、職員自らが行わなくても実施可能な業務は極力外部委託を活用するなど、臨機な対応も必要となります。限られた人員と時間の中で、最も効果的な手段を選択する経験に基づく判断が、災害対応の成否を左右します。
そして何より、災害対応には「空振りを恐れず、大きく構える」姿勢が大切です。想定される最大限の備えを講じることが、結果として被害の最小化に繋がることになります。
最後に、災害への備えは、いつ起きるか分からない、かつ、終わりがないことから、継続と忍耐が必要であり、「災害に強い県土」の実現に向けて、今後も技術と人の力を結集し、不断の努力を続けていくことが不可欠です。

