「茨城の防災」危機管理を問う

茨城の防災 危機管理を問う 5

2025.05.29

「茨城の防災」危機管理を問う

前県土木部次長兼総括技監 石川 昭氏
1965年3月5日生まれ。60歳。90年4月に入庁、企業局に配属となる。その後は、道路建設課長、災害・防災対策監兼河川課長、水戸土木事務所長などを経て、2025年3月に県土木部次長兼総括技監で定年を迎えた。現在は茨城県道路公社の理事長を務めている。

災害時の避難など道路整備は重要

 茨城県は、これまで多くの災害に遭ってきました。平成23年の東日本大震災をはじめ、平成27年関東・東北豪雨、令和元年東日本台風豪雨など、災害が頻発化しております。
 本稿では、これまでの経験も踏まえ茨城県における災害への対応および災害時の協力体制の重要性について、道路を中心に記したいと思います。
 茨城県は太平洋に面した海岸線を持つ一方、内陸部には山間地も広がる地形となっています。この多様な地形と近年の自然災害の増加を踏まえ、県における防災対策は非常に重要です。
 特に道路インフラは、災害時の人命救助や物資輸送、避難行動の円滑化に不可欠であり、茨城県の防災計画においても中心的な位置づけとなっています。
 茨城県は災害が少ない県、と言われたこともありましたが、実際には地震・津波、台風・豪雨による洪水や土砂災害のリスクが高い地域です。東日本大震災では沿岸部でも津波被害を受け、多くの教訓が得られました。
 また近年はゲリラ豪雨など局地的な激しい降雨も増加傾向にあり、道路や橋梁の崩壊、孤立集落の発生が懸念されています。
 茨城県の防災計画において、道路は災害時の避難誘導や緊急車両の通行、復旧・救援物資の輸送など、多様な役割を担います。人命救助のタイムリミットと言われる「72時間の壁」があることからも、県管理の国道および県道のうち「緊急輸送道路ネットワーク計画」に位置付けられた路線を中心に、災害に強い道路の強靭化を進めています。
 具体的には、阪神淡路大震災や東日本大震災の経験から、橋脚の巻き立てによる耐震性能強化や老朽化した橋梁の補修・架替え、法面の補強等を推進しております。
 ここで「緊急輸送道路ネットワーク計画」についておさらいしますと、緊急輸送道路は、地震直後から救助をはじめ、物資供給等の応急活動のため緊急車両の通行を確保すべき重要な道路で、阪神淡路大震災を契機に第1次から第3次まで指定されおります。
 「第1次」は、県庁所在地、地方中心都市、災害拠点病院、重要港湾、空港などを連絡する道路。「第2次」は第1次と市役所町村役場、保健所、道の駅等を連絡する道路、「第3次」は第1次と第2次を補完する道路となっています。詳細については、土木部道路維持課のHPに掲載されておりますので、どの路線が指定されているかご確認いただければ幸いです。

早期復旧へ35団体と協力体制

 「道路啓開計画」はご存じでしょうか。前回お話した「緊急輸送道路ネットワーク計画」が災害発生前の準備とすれば、「道路啓開計画」は災害発生時からどのように行動すべきかを示したものです。災害発生直後から緊急輸送を円滑かつ確実に実施するため、緊急輸送道路を中心に48時間以内に瓦礫等を撤去し、緊急車両等の通行を可能にすることを基本にしております。
 実際に災害が発生した際に、道路が土砂災害や崩落で通行不能になった場合、迂回ルートや道路啓開の迅速化が不可欠です。県においては事前に道路啓開タイムラインを作成し、国土交通省や災害協定締結団体等と連携を図り、直ちに工事を開始できる体制を整えています。
 すぐに工事を開始できる体制と述べましたが、実際には「災害関連協定締結団体」の協力が必要不可欠です。県では、令和7年4月時点で35団体と協定を締結しております。
 道路が被災した場合を例にとりますと、発災直後、まず道路パトロール等を実施して被災情報を取得し、被災箇所の「点検・調査・設計」を茨城県測量・建設コンサルタント協会、茨城県建設コンサルタンツ協会等に協力要請をいたします。
 「応急復旧」が必要な箇所については茨城県建設業協会に、災対法に基づく路上の車両移動が必要な場合には茨城県緊急作業用自動車協会に、それぞれ協力要請をいたします。さらに、災害復旧時に「資機材」が必要となる場合は、交通規制等の資材は茨城県交通安全施設業協同組合に、道路の応急復旧においては茨城県アスファルト合材協会、茨城県常温合材協会や茨城県採石事業協同組合等に協力要請をいたします。
 あくまで、道路が被災した場合の一例でしたが、ほかにも建築関係であれば茨城県建築士会、茨城県解体工事業協会や日本補償コンサルタント協会などに協力要請するなど、多くの団体の皆様の協力があってはじめて前述の二つの計画が成り立つことになり、あらゆる災害に対応していただいていることに改めて感謝を申し上げます。
 災害時においては、道路インフラの強靭化が災害時の生命線として重要だと考えております。地震、津波、豪雨など多様な自然災害リスクに備え、緊急輸送道路のミッシングリンクの解消および多重化、耐震化、ICT技術の活用、地域との連携など総合的な取り組みが必要です。
 今後も変動する気象条件や社会状況を踏まえ、持続可能で強靭な道路ネットワークの構築が求められており、住民の安全確保と迅速な復旧・支援活動の要として、さらに道路機能強化が必要と考えております。
 そのためにも、「社会資本の整備の担い手」であり「地域の守り手」でもある建設業が担う役割は一層重要なものとなっています。しかしながら、建設業を取り巻く環境は、働き方改革の推進、建設従事者の高齢化の進展、担い手の確保・育成など、様々な課題があります。
 これらの課題について、私たちも一緒になって、よりよい方向に向かうよう取り組み、魅力ある建設業になるよう努め、県民の皆様のために快適で安全安心な社会インフラを築いていきたいと考えております。

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