茨城の防災 危機管理を問う 7
2025.08.01
「茨城の防災」危機管理を問う


原部 修一(はらべ しゅういち)
1962年2月23日生まれ。63歳。84年入庁、土木部河川課に配属。流域下水道事務所長、下水道課長、技監兼検査指導課長、企業局次長などを経て、2022年3月に定年を迎えた。その後は県開発公社常務理事を務め、現在は昱㈱茨城支店に勤務している。
老朽化等の未整備は破損の原因
今年1月、埼玉県八潮市の流域下水道管(Φ4750、シールド工事による施工)の破損に伴う道路陥没事故により、トラックの転落事故が発生しました。昨今、こうした下水道管の事例や水道管の破損に伴う漏水による道路通行止めなどが、マスコミに取り上げられる事例が増えてきています。
その要因が、下水道管や水道管が布設から50年以上経過していること、老朽化に起因して修繕や更新が間に合わないこと等にあるのは自明です。
私も38年間の県職員生活の中、色々な規模の災害やその対応を経験してきました。その中から学んだことや、後から振り返り「こうすれば良かった」と思うものも含め、いくつかの事例についてお話したいと思います。「そんなことは分かっているよ」と感じるものばかりかもしれませんが、これから台風シーズンに入り、災害が多い時期になるので、確認の意味でも読んでいただけると幸いです。
特に下水道は、河川や道路と違って台風等の災害時に施設が破損する度合いが少ないですが、先の事例のように老朽化や耐震化の未対策による被害は十分想定されます。先月発生した、土浦市公共下水道管の破損を原因とする道路陥没事故は人的被害がなく、胸をなでおろしました。
今回は下水道のことを中心にお話しますが、下水道でも水道のように汚水の圧送管があるため、その事例も紹介しながら進めていきたいと思います。
自分の経験として大なるものは、水戸土木事務所の河川整備課長を務めた時、平成23年3月の東日本大震災や同年9月の台風襲来による災害対応を行ったことです。河川関係だけで合計100か所以上の災害査定をとり、国や県からの応援をはじめ、事務所や業者業界が一丸となり、皆様と一緒に復旧に尽力しました。
関係者の皆様には釈迦に説法かもしれませんが、災害対応は国の手当が多く、自分たちの持ち出しが1・7%(交付税措置後の実質負担)です。これは県からの持ち出しが少なく、利用しない手はありません。
災害復旧は申請主義なので、「男っぷりが多少良くなくても」自信をもって申請してほしいと思います。査定率など気にせず進められると良いでしょう。後年に施設の被災に気付いても、災害査定の申請はできません。これで元に戻すとともに、施設を新しくしてしまいます。
特に水道は、令和6年4月に厚生労働省から国土交通省に移管され、災害復旧の手法も国土交通省と肩を並べて取りやすくなってきています。
大地震等の発生頻度は少ないですが、もし災害対応が取れて少ない負担で施設を新しくできれば、下水道、水道ともに関連の市町村等の負担が少なくなり、県民の皆様の料金値上げを防止することにつながります。
調査・点検を重視し早期整備
下水道の通常の対応としては、水処理施設や布設してから50年以上が経過している管渠の老朽化に伴う更新や補修・修繕を、できるだけ補助を導入しタイムリーに進めていく必要があります。
また、老朽化や耐震化対策は、かつては長寿命化計画、現在はストックマネジメント計画に基づいて事業費を平準化して実施しています。老朽化対策を的確に実施するには、点検・調査を定期的に行い、そこから得られた情報によるストックマネジメント計画を随時更新することが重要です。このことが、管の破損による事故の発生を未然に防止することにつながってきます。
今回の埼玉県の事例のように、シールド工事で施工した箇所は、㎞単位でマンホール間が長いため、マンホール箇所からの目視点検では管長全体を確認しきれません。現在のやり方では、ある意味盲点であったと思います。
水道や工業用水道管は、浄水場やポンプ場からの圧送なので、老朽化などに伴う漏水があれば、地上に水があふれることで判明します。早期に漏水を発見することができれば、被害も最小に抑えることができます。
ただし、通常の管路パトロールにて漏水が発見できなかった場合には破損箇所が大きくなってしまい、漏水量が増加して重大な事故につながる恐れがあります。その復旧もまた大規模になり、復旧のための仮設の困難さが増大し、道路の利用者や工業用水については企業にも迷惑をかけてしまう恐れがあります。
また、復旧の資材(口径ごとの継輪、押輪、等)についても、資材メーカーとの連携を重視するとともに、用意もしておく必要があります。そうすることにより迅速な対応が可能となります(県企業局では対応済)。
また、現場の復旧に当たり、対応業者は送水管や配水管の場所ごとに決まっているため、迅速な対応が期待できます(県企業局、下水道課では対応済)。もし上水道や工業用水道であれば、どんなに口径が大きくても、圧送なので本管の仕切弁を一時的に締めて水を送ることを止めれば、排泥弁や空気弁からの排水により管内をドライにすることが可能なため、早期の復旧が可能です。
汚水が自然流下する下水道であれば、今回の埼玉県の事例を鑑みると、ある一定以上の大口径ではバイパス管や仮設管の設置を短期間で行うことは難しくなります。
全国的に見ても、県内の流域下水道等(L=360㎞)においても修繕や更新を行う時に使用するバイパス管は存在しないことが実態です。事故等の非常時に備えてバイパス管を事前に布設することは、現行の補助制度では管のW計上になってしまい、難しいものと思われます。
下水道でバイパス管を布設し、維持管理をしていければ地域住民は安心できますが、今の仕組みの中では補助対象にはならず単費扱いとなり、市町村の負担が大きくなってしまいます。流域下水道の大規模なものは、財政的なものも含め仕組みを変えていくことが期待されます。
やはり、大口径管渠については普段からの点検を重視し、軽傷のうちに気付いて早期に復旧してしまう流れを国、県、市町村と持つことが必要だと思います。小さい傷のうちに直すことで、費用を抑えることができます。
まずは、既設の管をできるだけ長持ちさせるよう(硫化水素の発生による腐食防止)、個人でも料理に使用したフライパンの油汚れなどを布切れで拭き取ったりして、油を流さないという意識を持ち、自助での対応を取ることも大切かと思います。特に工場や店舗等の、事前処理施設での汚れのカットが適正かどうかの確認も大切です。
問題意識を共有、災害への備えを
人手不足の中、手を回すことは大変ではありますが、小学生やその親の皆様への啓蒙、啓発は大切です。AIを活用したPRにも期待できるのではないでしょうか。
また、役所側も日頃の点検や調査を行っていますが、その調査費用は決して安くありません。カメラ調査の結果を調査会社から受ける時、担当者は中身をしっかりと確認し、損傷の具合をランク別にして、必要に応じて予算をとり、修繕することが大切です。
AIや技術の進歩で、出来るだけ簡易で安価な調査方法が発明されることや、定期的な調査のための国の補助制度の創設などに期待したいところです。
かつて、霞ケ浦周辺の下水道事業には水源地域特別措置法による補助率のかさ上げがありました。つまり、補助裏の負担が少なくなっていたのです。今は優遇措置もなくなり、通常の補助率で高度処理施設を更新していく必要があります。
さらに、関東平野の茨城県は地盤が水平なので、汚水を流すために必要な流速を確保するため(0・6m/秒以上)勾配をつける必要があり、特に県南部は地質が軟弱な中、深い箇所に管を布設するため仮設にもお金がかかってしまうような流れがありました。
老朽化に伴う処理場や管渠の突然の事故対応については、汚水がまき散ることになるので、地元対策がスムーズになるよう心掛け、その箇所に応じた対応策についてイメージトレーニングを行い、維持管理委託業者さんも含め議論しておくことが大切です。我々県職土木技術者は転勤がつきもので、いつも現場で災害対応ばかりはできません。配属された地域でベストを尽くすことが大切です。
これらを通じて学んだことは、未然に防ぐことは大切ですが、事が起きたときに一部でも良いので、どのように対処し切り抜けるかをイメージし、みんなで真剣に議論し、それらを共有しておくべきだということです。特に出先では、業者、業界の皆様との連携は大切です。
大地震が発生した時には、複数の浄化センターや下水道管が被災を受けることになります。
県庁と出先機関それぞれが問題意識を持ち、しっかりと災害への備えをしておくことが必要です。事務所として、できる範囲でまとめてしまうのではなく、他の手を借りてでも課題をつぶしていかなければなりません。
一方、近年では業者、業界も含め働き方改革が叫ばれています。子育てをしながら仕事をこなしている人もいる中、もしもの際には皆で助け合い、チームワークで切り抜けてほしいと思います。
このような取り組みにより、霞ケ浦をはじめとする公共用水域の水質保全や生活環境の向上のため下水道が適正に働くことができ、下水道管が占用している緊急輸送道路、河川、高速道路などでも事故なく、県民生活の安心安全に繋がるものと確信しています。

