「茨城の防災」危機管理を問う

茨城の防災 危機管理を問う 6

2025.07.01

「茨城の防災」危機管理を問う

前県企業局次長 小薗江 実氏
1964年11月5日生まれ。60歳。88年に入庁、道路維持課へ配属となる。高萩工事事務所長、県企業局危機管理対策監兼施設課長などを経て、2025年3月に県企業局次長で定年を迎えた。現在は県建設技術管理センターの専務理事を務めている。

施設耐震化と危機管理体制を強化

皆様の記憶に新しい令和6年元旦に起きた能登半島地震は、水道施設に甚大な被害を及ぼしました。そこで今回は、私がこの3月まで勤務していた茨城県企業局における災害対策について記したいと思います。
 茨城県企業局が策定した「企業局経営戦略」では、施設の耐震化や危機管理体制の強化を重点項目の一つとして掲げており、基本目標である「安全で安定した水の供給」を目指して施策を推進することとしています。
 災害対策については、ハード整備等による発災前の『予防対策』と被災時における被害の最小化や再稼働の迅速化を図る『危機管理対策』を両輪に位置づけ、それぞれの取り組みを進めています。
 はじめに『予防対策』ですが、阪神・淡路大震災後、茨城県地域防災計画に基づき「水道施設耐震化計画」を策定し、地震による水道施設被害を防ぐため、老朽化施設の改築更新計画と整合性を図りつつ優先順位を定め、計画的に耐震化を進めています。
 「建築物等」については、平成12年度から「第1次耐震化事業」として、水処理の中枢である管理本館の耐震補強などを行い、平成26年度からは「第2次耐震化事業」として、ポンプ棟など、その他の建築物の耐震補強を行い、令和3年度までに完了しております。また、災害時に応急給水を行うための緊急連絡管の整備についても、今年度中の完了に向け整備が進められております。
 「管路の耐震化・更新」については、東日本大震災での被害状況を踏まえ、企業局が管理する総延長約1340㎞に及ぶ管路のうち、地盤の液状化の恐れがある区間から優先して、管路を耐震化する事業が進められております。
 今後は「AIを活用した管路老朽度診断」の結果を踏まえ、老朽化した管路の更新も含めて計画的に進めていくこととしております。
 「水道施設の停電対策」については、大規模災害等による停電時においても、浄水場の機能を維持するため、非常用自家発電設備の導入が進められております。これまでに、上水で2浄水場、工水では3浄水場及び1取水場への整備を完了しており、昨年度からは水戸取水場への整備が進められています。
 「水道施設の浸水対策」については、浸水被害が想定される水戸取水場などの24施設について、令和4年度までにすべての施設で浸水対策や減災対策が完了しています。
 また、企業局が所管する11の浄水場では、電気・機械設備の老朽化が進んでいる状況にあるため、「施設更新計画」を策定して、計画的・効率的な改築や更新が進められています。
 このように企業局では『予防対策』を着実に進めているところではありますが、激甚化・頻発化する自然災害による被害を完全に防ぐことは困難な状況にあります。

災害時の備え、計画的に推進

しかし、そのような場合でも、迅速かつ確実な応急対応で被害の最小化を図る必要があるため、①災害対策基本マニュアルの整備と更新、②災害対策訓練の実施、③水質検査体制の充実、④各種協定等の締結、⑤補修資材の備蓄、⑥災害時協力員制度の創設、⑦業務継続計画(BCP)の策定-などの取り組みにより『危機管理対策』を強化しています。
 具体的には、災害発生時に速やかに被災した施設を復旧するため、また水を供給する関係者へ確実に情報提供ができるよう緊急連絡体制を整備し、毎年最新の情報へ更新するとともに、その実効性を確保するため、毎年災害時や緊急時を想定した災害対策訓練を実施しています。
 また、企業局で経験を積まれたOBの方々を協力員として登録していただき、災害復旧活動などの支援をいただく「災害時協力員」の制度を平成22年度に創設しています。
 現場では、経験力と技術力が必要不可欠であり、協力員の支援により災害復旧活動の円滑化が図られています。
 これは、前年度に起きた漏水事故を教訓として、当時の局長である渡邊一夫氏(現・建設未来通信社顧問)が、漏水補修資材の備蓄拡充や応急給水ペットボトルの充実、給水車の確保等とともに実施した『備えの強化』であります。
 その翌年に起きた東日本大震災の対応では大いに役立ち、「備えの大切さを再認識させられた」と、当時携わった先輩がしみじみと話をされていました。
 さらに、茨城県企業局では、東京都水道局と大規模災害時に相互に支援拠点水道事業体として活動を行う覚書を締結しています。これは、南海トラフ地震や首都直下地震など、今後30年以内に発生する確率が高いといわれている大規模地震に対する備えとして、被災地の被害が甚大で救援体制の長期化が避けられない場合、宿泊場所確保等の被災地救援活動の支援を行う「大規模災害時における広域連携の強化」にも取り組んでいます。
 現在、企業局では、水道施設の耐震化や緊急連絡管の整備、停電対策など、災害への備えが計画的に進められています。水道施設に携わる皆様には、大規模地震などを想定した災害対策に計画的に取り組まれ、県民の方々に「安全で安心な水を安定的に供給する」ことを切に願います。
 最後に、水道施設の維持・管理を行い、災害発生時には「地域の守り手」の役割を担っていただいている建設業の皆様は、救助・救援活動の初動対応やその後の復旧・復興活動に欠かせない存在となっています。災害対応される皆様には、自分自身の安全確保を最優先として行動していただき、ご尽力いただきますことを心よりお祈り申し上げます。

東日本大震災発生時の浄水場の被災状況

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